子どもの食においては、栄養素摂取の偏りや朝食の欠食、小児期における肥満の増加など、かつてよりも問題が多様化、深刻化している傾向があります。生涯にわたる健全な心身の増進と豊かな人間形成の推進が、いわゆる「食育」の基本的な考え方です。胎児期から子育ては始まっていますが、色々な味や食感を経験し始める授乳・離乳期の食も、生涯にわたって質の高い食事を営む力の基礎となります。
りんごは、離乳食としてもお馴染みの食材の1つですが、果肉をそのまま食べる以外に、果汁にしたり、すりおろしたりと、身体機能の発達や体調にあわせて様々な与え方ができます。りんごに含まれる食物繊維には整腸作用が期待できるので、赤ちゃんのお腹の調子が悪い時などは、すりおろしのりんごを与えるといいでしょう。
また、生後10カ月前後になると、手づかみ食べがはじまりますが、これは赤ちゃんの発達においてとても大切なトレーニングになります。遠くにあるものを自分の目で確認して、手でつかんで、口に運ぶということは、それぞれの位置を確認できる機能が備わらないとできません。
りんごは手づかみ食べにもぴったりの果物です。最初は薄く切ったものをあげて、少しずつ厚くしていくといいでしょう。歯ごたえのあるものをきちんと噛むことで、あごの発達を促すことにもつながります。
味覚が発達途上の赤ちゃんは酸味の強いものは苦手ですし、やはり軟らかい方が食べやすいので、甘味が強くて酸味が弱く、比較的果肉の軟らかい王林等はおすすめできる品種です。少し大きくなったら、やや酸味の強い品種も試してみるなど、いろいろな味に慣れさせるといいでしょう。
おやつの時間は子どもにとっても、大人にとっても、楽しいひとときです。でも、成長段階の子どもにとっては、おやつも食事の一部(補食)として、ぜひ考えてほしいと思います。おやつというと、甘いケーキやスナック菓子を思い浮かべるかもしれませんが、おにぎり、果物、ヨーグルトなど、カロリーだけでなく、栄養もとれるものもぜひ食べてほしいですね。
また、中高生の夜食としても、りんごは適しています。夜、脂肪分を摂ると翌朝におなかが減らないことがありますが、りんごならその心配はありません。空腹感が満たされますし、糖分はすぐにエネルギーになるので、試験勉強をがんばる時の夜食にもおすすめできます。
「日本人の食事摂取基準(2015年版)」では、子どもの食物繊維の目標量が新たに定められました。目標量とは、生活習慣病の予防を目的として当面目指したい摂取量のことです。日本人はどの世代でも食物繊維の摂取量が不足しているのですが、りんごをはじめ、食物繊維を多く含む果物をおやつに食べて、幼いうちから必要な量をしっかりと摂ってほしいと思います。
りんごのように、皮ごと食べられる果物は、できれば皮ごと食べてほしいと思います。食物繊維は皮の方に多く含まれていますし、ケルセチンやエピカテキンなどのりんごに含まれるフラボノイドは皮に多く含まれています。ですから、皮を剥いて捨ててしまうのは、栄養面からすると、とてももったいないことです。
子どもがおやつにスナック菓子などを食べてしまうのは、“そこにあるから”なんです。大人はいろいろな情報を持っているので、健康によさそうなものを選ぶこともできますが、子どもの場合はまわりの環境によるところが大きいのです。
例えば、家で留守番をしている子どもに、おやつにりんごを食べさせたいと思ったら、カットしたりんごを冷蔵庫に入れておくなど、食べやすさを整えてあげることが必要です。
ところで、子どもを持つ親の悩みの1つに、食べ物の好き嫌いがあります。これを解消するには、大人が根気よく向き合うことが必要で、例えは一口食べて止めてしまった時でも、「今日は一口食べられたね」とほめてあげられることが大事です。なかには、りんごが苦手という子どもがいるかもしれませんが、りんごは品種によって甘味と酸味のバランスや食感が異なるので、いつもと違う品種を出したら子どもの反応も変化するかもしれません。
1つ、りんごに関する研究結果をご紹介すると、りんごを食べた後、血中のビタミンCの濃度が高かったという報告があります。りんごにはビタミンCはほとんど含まれていないので、りんごが食事中のビタミンCの吸収を促進したと考えることができます。
海外では、りんごをサラダに入れて食べることがよくありますが、そのように、ビタミンCを多く含む野菜と一緒に食べるとよいかもしれませんね。
しかし、そのような健康効果を過度に気にするよりも、果物を食べる習慣を身に付けることを意識してもらいたいと思います。
果物を食べることのメリットとしていえるのは、動脈硬化や脳卒中などの、生活習慣病の予防になるということです。食習慣は長年にわたっての積み重ねで決まっていきますから、子どもの頃に毎日必ず果物を食べるという習慣が身に付けば、それは大人になっても続いていくでしょう。
逆に、果物を食べる習慣のない子どもが、大人になって食べるようになるかというと、かなり限定的ではないでしょうか。
また、最近では「個食」ということが問題になっていますが、果物は切って分け合って食べることが多いですから、家族での「共食」の場にもっともふさわしい食べ物です。季節ごとに違う果物が食卓に並べば、季節の変化を感じたり、食事中の会話が増えたりと、様々なよい点があるでしょう。
子どもを果物好きにするには、常に家に果物があって、親が好きでよく食べているという環境が一番の近道です。今まであまり果物を食べてこなかったという方にも、ぜひ意識して取り入れてもらいたいですね。
米国デラウエア大学卒業後(栄養学)、コロンビア大学教育大学院(栄養教育学)にて修士号取得。東京医科歯科大学大学院にて医学博士号を取得。米国登録栄養士。現在は生活習慣病予防・改善に向けた保健指導に関する研究を中心に、栄養教育研究に従事している。また、2児の母親でもある。